最高裁判所第一小法廷 平成元年(オ)1696号 判決 1990年9月13日
熊本県鹿本郡植木町大字石川四五〇番地一
上告人
開成工業株式会社
右代表者代表取締役
谷冨史直
熊本市清水町大字新地七四八番地二
上告人
谷冨史直
右両名訴訟代理人弁護士
東敏雄
鹿児島県国分市福島一丁目九番二六号
被上告人
井関鉄工株式会社
右代表者代表取締役
井関修二郎
右当事者間の福岡高等裁判所宮崎支部昭和六一年(ネ)第一五一号特許権侵害禁止並びに損害賠償請求事件について、同裁判所が平成元年九月二七日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人東敏雄の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大内恒夫 裁判官 角田禮次郎 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大堀誠一 裁判官 橋元四郎平)
(平成元年(オ)第一六九六号 上告人 開成工業株式会社 外一名)
上告代理人東敏雄の上告理由
原判決は発明の構成要素に関する法則の解釈を誤り、左記の通り理由に齟齬あるものである。
第一 原判決は、本件発明により解決すべき外部の自然条件を発明の不可欠の構成要素と誤認し、これを発明の技術範囲に取入れた結果その判断において後記分説の通り理由齟齬に陥った。
本発明は、ストッパー8を介して第二揺動部材部材13の8a点に作用する数百キロにものぼる水圧を、第一揺動部材12と第二揺動部材13とを、その枢支連結連結点14において屈折させることにより、極めて軽微な力をもって堰体の係止を解除することをその作用目的とするものである。この場合、第一第二揺動部材をもって構成される浮力伝達リンク15にはその軸方向に水圧とほぼ同量の反力(荷重)が作用することになるが、これを如何にして解除するかが本発明の技術目的である。つまり、伝達リンク15にかかる水圧は本発明が解決の対象とした外部的条件なのである。しかるに、原判決は次項の通り伝達リンク15にかかる荷重をもって発明の構成に不可欠の要素とするのである。
第二 次に原判決を分説する。
一節 (判決五枚目裏九行目)
「しかしながら、8aと13aは連結されていないから、浮力伝達部材である第一揺動部材12と第二揺動部材13を枢支連結14した浮力伝達リンク15にフロート18の浮力を作用させた場合には、浮力伝達リンク15は持ち上げられストッパー部材8と離開する筈であり、これが離開しないのは第二揺動部材自体に加わる重力及び慣性による作用を除くと浮力伝達リンク15にストッパー部材8からの荷重が掛かってその摩擦抵抗によるものと考えられる。」
所論は当然の物理現象を記述したものである。ストッパー部材に作用する巨大な摩擦抵抗が、本発明が解決の対象とした自然現象であるから、この摩擦抵抗がなければ本発明の屈折機構が作動する場のないのは当然である。しかし、このことから逆に摩擦抵抗が本発明の不可欠の技術的要素となるなどと推論することはできない。それは、揺動部材の屈折そのものは本発明の作用効果を発生させるための手段であり、発明の目的ではないからである。
二節 (六枚目表四行目)
「このことは、一端を固定した第一揺動部材の揺動運動を直線運動に転換するには、通常、右揺動部材の固定されていない側の端に屈折自在に第二揺動部材を枢支連結し、右第二揺動部材の枢支連結されていない側の端にピンを取り付け、これを求める直線運動の動線に一致して設けられたガイドレール又は長孔に嵌入させるなどの運動規制の機構を用いて、第一揺動部材の揺動運動に応じて右ピンを直線的に往復運動させているのに、本発明ではこのような運動規制の機構を欠いてゐることからも明らかであるし、」
本節は揺動部材12と13が枢支連結された14点における上下揺動運動を、揺動部材13の自由端において直線運動に転換するための運動規制機構の説明であるが、これはありふれた工業上の実施態様の一であるが、本発明の実施態様においてこれを必要としないことが、なぜ8aに摩擦抵抗の存在を本件発明の構成の不可欠の要素とする理論的根拠となるのかは不明である。
前項に分説した通り、もしストッパー係止部8aに水圧がかかっていないならば、勿論屈折機構の作動する場はない。原判決縷々記述するような、揺動運動を直線運動に転換するための運動規制機構は屈折機構に付随するメカニズムの一態様にすぎない。
三節 (六枚目表終行)
「また前記荷重が存在しないと、8aと13aは連結されていないから、浮力伝達リンクにフロート18の浮力が作用した場合に、第二揺動部材はその重力及び慣性によりそのままの位置で動かないこともあり得ることからも明らかである。」判示の文意を正確には理解しがたいが、前記荷重なるものは水位の上昇による水圧にほかならないから、荷重が存在しないということは、水位の上昇がないということになりこの場合にフロート18に浮力が作用するという物理現象は起こりえない。原判決は因果の法則により必然性の連鎖として現れる自然現象を、観念的に切り放して推論しているに過ぎない。
四節 (六枚目裏四行目)
「して見ると、本件発明における屈折解除機構は、ストッパー部材からの荷重が必要不可欠であるばかりかこれを利用して浮力伝達リンク15の屈折を引き起こしているものであって右荷重は本件発明の不可決の要素といわなければならない。」これは目的と手段を逆転した理論である。ストッパー部材の荷重を解除することを目的とする発明において、その荷重がなければ屈折機構が作動しないことは当然である。のみならず、この推論は物理的に明白な背理なのである。即ち、揺動部材12と揺動部材13とを枢支連結連結14して、その14点にフロート18を直角に作用せしめる場合に、12と13の軸方向に荷重の掛かっている場合のほうが、荷重の無い場合よりも、屈折により多くの力を要することは見易い理である。したがって判決のいう「荷重が必要不可欠であるばかりか、これを利用して浮力伝達リンク15の屈折を引き起こしている」などということが物理的に全くの誤りであることは明白である。
五節 (六枚目裏八行目以下)
「これに反し、イ号物件においては、回転枠体30からの荷重はカム41を介してカム支持軸40に伝えられるものの、回動円盤51の支持軸50には伝達されないから、本件発明の不可決の要素を欠いているものといわなければならない。」この結論が根拠を欠くことは上記の通りである。
以上